TEAM"B"




 ショーを終えた後、脳や体が心地よい充実感を覚える。思考を巡らせ、体を動かしたことで神経が研ぎ澄まされて、脱皮したかのような感じとでも言うだろうか。より一層視界がクリアになって、楽しくなってく。
 客がこちらを見てくれる。ショーの最中はステージの上にしか照明が当たらないが、結構客席は見えたりするもんだ。まぁ、これは個人差があるだろうから見えない人は見えないだろうけれど。カスミやシンなんか髪で目が隠れているし。
 さてさて、俺が話したいのはそういう事じゃなくて。もっと別のこと。
 ショーが終わって席に座っているお姉ちゃん達に声を掛けた時に、聞かれた事がある。
 大体こういうのはショーについてだとか歌についてだとかそういうのが多くて、ミズキはそれを聞くと機嫌が良くなってヒースの曲すげぇだろ!って自慢を始める。リコは相変わらずのナルシスト発揮するし、金剛も褒められて良い気はしない。ヒースぐらいやないかな?褒められて微妙な顔してるの。あれもあれでツンデレな所があるからなぁと、これは個人談。
 その中で一際気になったのが、こんな質問。
「チームBの"B"ってなんの略称なの?」
 なぁなぁ、俺達のBって、一体なんの略だと思う?


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 絶対にいると確信して行けるのは、とても喜ばしいことだ。我らがチームBのトップとナンバー2はよく仕事を放り出してどこかへと出ていってしまう。最近はちゃんと仕事してるらしいけれど?どんな心境の変化が生じたのか、今度聞いてみるのも有りだろう。
 中でも金剛はキッチンスタッフとして雇われているというのもあって、ステージがなければキッチンにいるのが基本だ。元新体操で、元プロレスラーだった男の体はなんともまぁ大きく、どっしりとしているものだ。筋肉があるのは良い。女の子をお姫様抱っこするとか、男として夢がある。
 リコは筋肉なんてと言っているが、男として生まれたからにはやはり高身長とそこそこの筋肉は憧れるものだ。それに金剛は筋肉だけじゃなくて俊敏性もある。反射神経が良いのだろうか。以前にモクレンの蹴りを避けたのは凄かった。あの蹴りの速さは殺人級だ。いとも容易く避ける金剛も油断ならないものである。
 そんな金剛はキッチンでもかなり目立つ。仕方がない。他のキッチンスタッフは運営やヒースや玻璃とかみたいに体が細い人ばっかりなのだから。特異な経歴なのはお前だけみたいやな!金剛!
 いつものようにキッチンに入って、一際目立つ男に声を掛けて、その話を提示してみた。ちなみに今日の賄いの料理はロコモコ丼のようだ。
 俺の話を聞いてくれた金剛は、Bはなんの略称なのか、腕を組んでうーんと唸った。
「チームBのBが何なのか、か……ケイとかミズキは何か言ってた?」
「ミズキが覚えとると思う?」
「………思わない」
 難しいことなんて分かんねー知らねー興味ねーの三拍子のミズキがそんなの覚えていたら常日頃口するの、想像がつくじゃん。先に金剛に尋ねたから実際の所は分からないけれど。
 でも金剛はすぐに想像が出来たみたい。遠い明後日の方向を見てぼそっと言ってる。
 ミズキの回答はそうだとしても、金剛が思い浮かべる"B"は興味がある。"B"と言われて、金剛は一体なんの略だって思う?これは単純な俺の好奇心と興味の質問。
 なぁ、金剛。金剛は一体なんの"B"って思う?
「"B"……"B"かぁ……うーん。ボーイズ、バンプ、ブック、ベビーフェイス…は、流石に違うだろうしなぁ」
「バンプ?ベビーフェイス?なに?童顔って事?」
「ああ、違う違う。プロレス用語だよ。バンプは受け身、ブックは試合の流れとか段取り、ベビーフェイスは正義のプロレスラー。ヒールの逆だよ」
「へぇ、なんかスターレスのショーみたいやな。バンプは金剛って感じ。ボーイズは?」
「ボーイズはプロレスラー。スターレス流に言えばキャストって所かな」
 元プロレスラー、やはり感覚がどうしても残ってしまっているのだろう。だが、その言葉は面白い!ブックは脚本。ヒールとベビーフェイスは言わばチームの対決、もしくは脚本内の登場人物。試合はショーで、バンプは台本の中の当て書きの一部として見ると、面白い。これだけで"B"が4つも出てきた。
 だけど、金剛はそれだけ答えを言ってもしっくり来てなさそう。
「でもチームBにはちょっと合わないな……考えてみると結構難しいな。関係無いワードは色々と浮かぶんだけど」
「まぁ、そういうもんじゃない?ちなみにその関係ないワードって何?」
 デミグラスソースいっぱいにかかったご飯とハンバーグを食べて促してみる。濃厚なソースが肉汁と合わさって良い感じのタレに変化してご飯にもよく合う。金剛が作る料理はやっぱり美味しいなー。料理人には、なりたくてなったのかなぁ。今から逆算したらプロレスラーやってた期間、そんなに長くなさそうやし。
 で。関係ないワードとして出てきたのは、ベーコン、バジル、ブルー、ブレッド、ブラックペッパー!どれもこれも食べ物や調味料ばっかり!本当に関係ない!いや、食べ物をいっぱい食べるミズキには関係があるかも?とにかく、おかしくてついつい笑ってしまった。今は料理人やから仕方ないのかもしれへんなぁ。しゃーないしゃーない!その解釈も全然有り!
「こういうのは俺よりもリコとかヒースの方が詳しいと思うよ。あの二人なら、もしかしたら意味を聞いてるかも知れないし」
 確かに。考えてみたらそうかも知れない。ヒースは歌詞を書いたり脚本を用意してくれるための下調べとかしてそうだし、リコの解釈は繊細で気難しい。その解釈が知識としてどこかに蓄えがある可能性はありそうだ。金剛の意見にも理がある。
「そっかー、じゃあ見かけたら聞いてみよ。ありがとう、金剛!あとおかわり!」
「え、もう食べたの?」
 美味しいものというのは食べてしまうとあっという間に無くなってしまうんや。なんと悲しい運命か。世の中の理不尽とはこういう所にも表れているんやな。何故ならば食べたはずの俺の胃袋はまだまだ空腹だと訴えているのだから!
 金剛にとってのBはまだまだ材料が足りないという所か。そういうのも含めて、今の金剛らしい回答であると思う。
 では、二杯目のロコモコを食べ終わったら次はヒースとリコを探しに行くとしよう!




 俺がフロアでシフトをしていて、金剛がキッチンで仕事しているのだから、必然として他の三人ももれなくシフトが入っていることだ。この点において注目すべきことは三人がきちんと仕事をしているのか否か。この点に他ならない。
 参考資料として俺が最初に確認するのはスマホのグループメッセージである。今現在の日付に対して、最終の発言はヒースのメッセージだ。
『うるさい。寝ろ』
 きっとこの時はかなり怒っていたことであろう。なにせ直前まで自分がサブの寝顔写真をこれでもかと投稿していたのだから。申し訳ないとは思った。二十パーセントぐらいは。
 仕方ないのだ。昔は小さく自分の後ろを一生懸命に追いかける子犬だった弟分が今ではすっかり大きくなって、自分が追いかける事も増えてきた。それでも寝顔というのはそのものの本質を十分に表してくれる。これは人だけじゃなくて動物にだって当てはまる。昨日偶然にもそんな弟分の可愛い可愛い可愛いあどけないその顔を見て、誰かに伝えなければいけないと感じるのは当然のことであるし、兄貴分としての責務である。あれは実にいい仕事をしたと自分をめちゃくちゃ褒めた。
 かんわきゅーだい。
 更新がそれ以降無いということは、リコとミズキはシフトに遅刻していないということだ。つまり、このスターレス内のどこかにいるという裏付けにもなる。ヒースは真面目なので、途中で事故にあったりしていなければスターレスにいるのは確実なので、気にしてない。問題だった二人もちゃんと居ることに良かった良かったと思う。
 さて、あとは場所を見つけ出すことだ。幸いにも、遊園地の中で探し出すわけじゃないので、歩いていればきっと見つかるだろう。
 ちょっとだけ楽しくなってきたので、せっかくだからかくれんぼの要領で探していこう。俺が鬼!



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「だからってここにおるのはないやろ!びっくりしたー!!まじでビックリした!!?」
「藍うるさい……」
 バクステにいるのは良しとしても舞台袖の奥の物陰におるって誰が思うか!背後から急に声を掛けられてビックリした!本当に!ビックリした!ちびるかと思った!
 ヒースは俺の声にうるさそうに耳を塞いで俺を見てるけど、え、これは俺が被害者やない?俺が悪いの?違くない?こんな舞台袖の影に居るヒースの方が悪いんじゃないの?そもそもなんでヒースはここにいるの?何してたの?こんな所で。
 俺の質問に、ヒースは休憩していたと話す。曰く、人が多い所に長居するのは疲れるらしい。俺にはよく分からないけれど、まぁ、そういう人間も少なからずいるだろう。ヒースには色々と見えてるっぽいし、店の中で落ち着ける場所を持つというのは大事なことだし良いことだ。
「で?何か用?」
 そうだった、忘れる所だった!
 改めて俺はこれまでの話と金剛の事を触れて、今回の用件についてヒースに話した。ヒースは床に座り込んだまま欠伸一つこぼして、それはそれは面倒くさそうな顔をして俺を見た。
「で、ヒースはどう思うのかなーと思って」
「興味ない」
「そう言わずにさー!ヒースなら色んな言葉知っとるやろうし、ヒースがどう思ってるのか、俺興味あるもん」
「何でもいいじゃん。そんなの」
 流石低燃費モード。全くこちらの言葉に乗ってくれない。でも、俺やヒースとはともかくとして。もしチームBのBが悪い意味だったりしたら、リコとミズキは怒るんじゃない?どいつもこいつもざまーみろっていうのが俺達やけど、ボーイズとかおこちゃまって言われたら、カンカンになると思うで?そういう奴等にビシッと言い返してやるのも、かっこいいと俺は思うけどなぁ。そういう絶対的に存在する何かって、あっても損はないと俺は思うのになぁ。
 俺の話を聞きながら、ヒースがふっと笑った。
「藍はチームKのK。なんて意味があると思うの」
「え、K?あー……キングとか、それこそケイとか?ケイが来て発足したチームらしいし?」
「じゃあWとPとCは?」
 え、なんで俺が質問されてるの。
 俺の質問には答えてくれないの?ヒースがいいから言ってと急かす。うーん。こうなってしまっては答えないと話が進まないような気がしてきた。ヒースのこういう所、本当に頑固でマイペースな男だなぁと思う。ブレないというのは良いことでもあるけど、たまにこういう時めんどくさいなぁと思う。
 Wはなんだろう。前のスターレスを含めてずっと昔からあるっていうし。でもトップの黒曜含めて、曲とかはロック!て感じがするなぁ。衣装とかも結構肌色要素出ているし、そういう意味ではワイルドっていうべきなんかなぁ。
 Pはプリンスって感じがする。キラキラしとるし、アイドルやし!実際にそうだろうっていうお客さんもよく聞く。まっ、チームそのものは結構ドタバタしとるけれど。
 Cは難しい。俺、そんなに英語とか得意じゃないし。クール?とか、キュート?とかそういう雰囲気はなんか違う感じがするし。よく分からん。
 うんうんと唸りながら話す俺にヒースは、ふーんって言いながら聞いていた。質問しておいてその反応はあんまりじゃない?俺、これでも繊細だから結構傷つくんやけど!それで。俺の質問には答えてくれるの?どうなの?質問を質問で返すの、なしじゃない?!
「じゃあ、答えなきゃ良いのに。……で、例えば、藍はPをプリンスって言ったけど、それが違う意味だって発足者が言ったらどうする?」
「違う意味?例えば?」
「簡単な例で言えば、ポイズン、プライアー……毒だとか、のけ者って意味が本当の意味って言われて、藍やお客さん。それで納得する?」
「え?うーん……まぁ、ドロドロ?っとしてる感じは毒っぽいと言えば毒っぽい?て感じ?お客さんは微妙やろうなぁ。キラキラした所しか見てないし」
「名付け親が「こういう意味でつけた」って言った所で、目にしなきゃ信じないし、それまで受けてきた印象がそう覆ることはない。そして誰かが「こうだ!と言った所でそうだって考えが変わるわけでもない」
「………つまり?」
「そんなどうでもいい事考える暇があるなら曲作りたい」
 結局はそこか!ヒースの言葉に俺はずでーんと床に倒れた。悲しいことにヒースは倒れた俺に「大丈夫?」と声を掛けることもなくただ見てるだけだった。くっ、こいつ、俺を助ける気ないな…!
 つまりヒースは、Bの捉え方は人それぞれで、それを言い出したり、共有だとかそういう事したって、意味がないと言いたいのだろうか。それはまぁ、確かにその通りだ。俺はアイドルになりたいからキラキラピカピカしているPに入りたいと思うし、ミズキがあそこをクソだなんとか言ってるのは平行線のままだろうし。というか、俺もミズキも周りの意見を割とどうでもいいと思っているから感化されないというのもある。
 では、話の方向を変えてみよう。こっちは単純に俺の知的好奇心として、気になる所。
「ヒースが興味ないのは分かった。じゃあさ、俺に"B"の単語いくつか教えて」
「………なんで?」
「さっきのプライアー?だっけ?そういうのみたいに、Bにもたくさん言葉があるんやろ?それ知っとくのも悪くないと思って。あ、バッドとか、ブラッドとかそういうの無しやぞ!流石にそれは分かるからな!」
 俺の牽制に、バレたかとヒースが小さく言った。小さく言っても聞こえとるぞ!さては隠すつもりがないな!俺はこれでも勉強家なんやからな!
「英語知りたいなら玻璃とかいっぱい出てきそうだけど……まぁ、良いや。バダス。ブリスク。ブロー。ブリッツ。ビトレイアル。バーサーカー…は、流石に分かるか。ベリコースとかビーアティフィック……」
「まてまてまて!いきなり多すぎって。ヒース、わざとやろ!深夜の事は謝るから!」
「ふふ……ごめん。ブリスクは活発とか、元気がいいとかそういうので、ブローは殴る。ブリッツは電撃、ビトレイアルは裏切り。ベリコースは好戦的とか、敵意があるとかそういう感じのもので、ビーアティフィックは至福とか、そういう意味」
 ニヤニヤと笑うヒースはいたずらっ子のような表情に似ていた。深夜のこと、根に持っていた様子だ。
 それでも、色々と言葉は教えてくれた。活発とか、元気がいいというのは俺やミズキぐらいしか当てはまりそうにないなぁ。裏切りはユダの公演を思い出させる。なんだ。なんだかんだ言っても、ヒースの教えてくれた言葉は全部チームBに馴染めそうなものばかりではないか。
 そう思ってふと、もう一つの単語の意味が聞けていない事を思い出す。なんだっか、バダス……で良かったか?ヒースにその意味を問いかけてみると、ああ、うん、と少しだけ、ヒースの目が逸れた。
「バダスは、まぁ、たちの悪い奴って意味なんだけど。最近だとかっこいいとか、そういう風に使う人もいるっぽい」
「それってアルファベットの、つづり?が違うんじゃなくて?」
「そもそも言葉って自由に読み方も何でも作れちゃうからね」
 言ったもん勝ちだよこういうのは。
 なるほど。言葉を作る。面白い発想だ。本来は悪い意味の言葉を良いものに置き換えるということも、海外ではあるのか。いや、この場合は、逆転の発想と言うべきか?あえて、違う翻訳をする。そういう場合にも近いかも知れない。ヒースの経歴は金剛やリコと比べるとまだまだ分からないことが多いけれど、俺達よりも面白いことをたくさん知っている。つまらない意味も、ヒースのたった一言で面白い意味に変わることだってある。
「うん。色々と面白いの聞けたわ。ありがとなヒース」
「気が済んだら藍のB教えてよ」
「だったらヒースのBも教えろよ。あれこれ教えてくれたけど、結局言ってないやろ」
 そう。Bについて色々と教えてもらったけれど、教えては貰ったけれども。結局彼は、自分にとってこうであるという明確な回答をこちらに提示していないのである。先程言った単語の中に、もしかしたら答えがあるかも知れない。無いのかも知れない。本当に興味がなくて考えていないのかも知れない。
 俺の言葉に、ヒースは笑って首を傾げた。
「さぁ?」
 この男、たまに油断ならない相手である。



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「どうせ、ケイのことだから。馬鹿とかろくな意味つけてないでしょ」
 対してリコの返答は、冷たいと言うべきかなんというか。想像通りというか予想通りというか。終始どうでも良さそうな上に名付け親がケイだと分かった途端にこれである。うん。リコのチームK嫌いもここまで来ると拍手を送りたくなる。
 とりあえずリコをてきとうになだめつつ、ド直球の意味に、まぁ、それもあるかも知れないなと思った。俺達がチームで最初にやったことが、なんといっても公演のハイジャックだ。普通はそんなこと、なかなかしないだろう。突拍子もない行動をすることと馬鹿をイコールするならば、チーム馬鹿もありえなくはない話である。
 ああでも、と。リコが何かを思い出す。
「雷神だと蜂(ビー)だっけ?そういう歌詞入れてたよな。あとは狂犬という意味じゃ、ビーストって可能性もあるけど」
「ああ、言ってた言ってた。あれも面白いよな〜。蜂と雷ってなんか関係あんのかな」
「さぁ?ヒースに聞かなかったの?」
「なはは、その事ポーンって頭から抜けてたわ」
 リコに言われて思い出したわ。そうやった。ヒース、雷神の時に俺のこと「蜂」に例えていたっけ。ヒップホップで言う所の、リリックとか、ライムとかその辺で選ばれたのだろうか?それとももっと深い意味があるのだろうか。後で会ったら問い詰めてみよう。答えてくれるか怪しいけれど。
 じゃあリコもそういう認識?そう聞いてみるとなんとも微妙な顔をされた。あれ、違うのか。その反応にちょっとだけ驚く。
「ふつーに考えたらB系って意味でしょ。それ以外に意味なんてあんの?」
「あー……なるほどなぁ。まぁ、リコならそう言うよなぁ」
 これも直球の意味だった。確かにチームBって、B系だ。いや、それだとPとかKとかどうなるんだろう。なに系のKとか?……それはそれで面白いな。P系とかK系でも結構面白い。衣装に肌色成分が普通より出てるから警察に捕まりそうな気もしなくはないけど。
 俺がつい言っちゃった言葉にリコ機嫌がちょっとだけ悪くなる。
「は?それどういう意味?そういうお前はどうなんだよ」
「俺?俺は探し中ー!」
 正確に言えば、探し中というよりは、ただ皆どう思ってるのか気になるから聞きに回ってるって感じやけどな。俺の考えを知らず、リコは華麗にスルーする。
 今この段階だけでも色んな情報が手に入った。全員、自分が知ってる情報を中心に出してくるがその引き出し方がそれぞれ違う。ヒースの場合はちょっと違う攻め方をしたのもあるかもしれないけど。金剛は自分の職を中心としていて、ヒースは知識として持っている情報を。リコは一般的なものと、身の回りの事を中心としてる。
「実際の所、意味なんてどうでも良くない?別にあった所で、大した使い道ないでしょ」
「そうかも知れんけど、なんかあった方が団結しやすくない?」
「思ってもないくせによく言う〜」
  そりゃあ、隠す気なんて毛頭ないし。建前でもなんでも、無いよりはマシで言ってるだけだし、面白そうだから言ってるだけ。つまらないことでうだうだしてるより楽しいこと、面白いことに時間を費やす方が充実してる。価値がある。そんな事言ったらリコ、ドン引きするかなぁ。するかもなぁ。リコは繊細で悩むタイプだから、こうやって切り替えできちゃう人間って異質に見られることが多いから。だからこそ、リコの普通の感覚は俺達にとって貴重だし、面倒でもある。うーん。ここまで言っちゃうと団結という言葉は使わないほうが良かった?いや、だけど対決の時に「倒すぞー!」っていう団結さは大事じゃない?学生っぽくてなんかスポ根って感じで面白そう。ヒースがスポ根から一番離れてるけど。ヒースやしな。しゃーない。

 さて、ここまで来たら、残るはミズキだけだ。
 正直、ミズキに聞いた所で返ってくる反応は分かっているが。もしかしたらという可能性もある。念の為、聞いてみるのは悪くないだろう。のけ者にしてしまっては可哀想だ。
 リコにミズキの居場所を知ってるか聞いてみたら知らないと言われた。スマホを見たけどグループメッセージに更新はない。多分、来てはいるだろう。ミズキはスターレスの事、大事みたいやし。
 もうすぐで開店時間だ。時間が来る前に見つけて、聞いて、この欲求を満たして仕事を刷ることにしよう。
 景気づけにリコに元気を注入してやって探しに行くことにした。遠くでリコが感謝する声が声が聞こえる。俺ってばやさしー!



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「B?」
「そう。チームBのB。ミズキはどう思う?」
 ミズキはレッスン室にいた。なんか、一人で秘密の特訓してた。いや、体を動かして発散してた?とにかく、レッスン室に一人でいた。
 とりあえずミズキに細かいこと言っても話を聞いてくれるとは思えないので直球で用件を伝えることにした。なんて答えるだろうか。知らねー。という返答が今の所一番の有力候補。その次に、俺達チームBが一番だ、とか。そんな事を言うかも知れない。
 どんな返答が来るのか、様子を見ていたらミズキのやつ、なんか口がもごもごしてた。
「あれ、あー………なんつーんだっけ……?」
「え、なんかあんの?」
 これは予想していなかった。まさかミズキからも回答を得られるとは!最後の最後で、トップからの意見は俺の好奇心を一気に駆り立てた。だって、あのミズキが。ミズキが!ミズキにとってのBが聞けるかも知れない。これは面白そう!
「なんか……テレビとか言うじゃん。なんとかBなんとかって」
「………もうちょっと情報ない?」
 なんとかBなんとかじゃ。流石に分からん。察しのいいヒースとかいたら良かったかな。くそ、あそこから連れ出せば良かった!面白いこと聞けそうやと思ったのに!タロットとかでなんか読み取れるかもしれなかったのに!しょうがないので自分なりに情報を整理してみる。
 テレビとか。とかという事はその他にも耳にすることがあるってことか?ミズキの生活から考えて、テレビ見てるのもちょっと予想外なイメージあったが、多分。たまたま目にした可能性が高い。目にしたり、耳にするものといえば、ゲーム、ラジオ、人の会話、チラシ、アナウンス。街に歩けばそういった発信するツールはたくさんある。
 しかし、なんとかBなんとか。は、流石に分からん。情報がBしか分からん。いや、そもそもBが「B」なのかも怪しい。もう少し材料が欲しい。どうにか情報をくれと目で訴えてみる。
「しょーがねーだろ!思い出せねーのは!」
 俺の眼力じゃ思い出せなかったか。だが、面白いものが知れた。何を知ったのか分からないが、ミズキの中でなにか、良いなと思ったフレーズがあったということだ。ここで、このタイミングでこんなもやもやしてしまうことが起きようとは思わなかった。さっさと思い出してほしいところだが、こういうのは無理に思い出そうとしても思い出せなかったり、記憶がネジ曲がったりする事がある。とりあえずその問題は今後の課題として。ミズキの考えをもう少し、聞いてみよう。
「思い出せないのは仕方ないとして。ミズキはそれを知って、これだ!って思ったわけ?」
「これだ!っつーか、お前の話聞いて、そうじゃねぇかなって思った。なんつーの?俺達についてこい!っていう感じの?俺の言葉通りのままじゃん!みたいな?」
「それがなんなのか思い出してくれると俺も分かる〜〜!て言えるんやけど、駄目だ。さっぱり分からん」
 残念ながらそう思ったと言われても、それから答えを広げるのは出来ない。そもそも英語。めちゃくちゃ得意って訳じゃないし。ミズキの言ってること、それ、感想だし。
 うるせぇって言いながらミズキがむくれた。そういう所、ガキっぽいなーって思う。本当に何も知らないガキで、要領の悪いガキ。威勢のいいガキって言ってるのは黒曜とか、あぁ、羽瀬山のおっちゃんも言うか。後者は誰に対しても似たような事言ってるけど。俺よりもずっとずっと子供っぽい。
 けれども、まぁ、ミズキがチームBを作ろうと考えなきゃ、俺はずっとスタッフのままやったかも知れないし。ボーダーラインやランダムチューンなんかでPの公演をすることも叶わなかったかも知れない。そういう意味では作ろうと思ったミズキに感謝だし、俺の好みを理解してくれたリコにも感謝だし、俺達チームBの曲を作ろうとしてくれるヒースにも感謝だし、人数合わせでも舞台に立ってくれる金剛に感謝だ。チャンスとはどこに転がってるか分からないし、どう巡ってくるかも分からない。小さなものも大きなものを逃さないようにしなければ、機会なんてものは訪れない。リコとミズキはPとKに嫌気を指していたわけだが、それでもやめる選択はしなかったわけで。
「あーもう。最後の最後で面白いの聞けると思ったけど、しゃーないわ。俺の答えもその時、考えることにしよ」
「なんだよ。俺のせいだって言いてぇのか?」
「え?ちゃうちゃう。楽しみは後にしておくってだけの話」
 俺はミズキよりもお兄ちゃんなので、無理に聞くのはやめることにした。客に聞かれても「ご想像におまかせ」なんて返答しか出来ないのはなんとも勿体ないのだが、客の言葉から新しい発想を得られるかも知れないし、ミズキもそれを耳にしていくことで思い出すかも知れない。俺にとってのチームBのBは、それから探しても良いだろう。
 壁に掛かった時計を見ると、開店時間がもう近い。ありゃ、思ったよりも話し込みすぎたかな?もうすぐお客さんが来てしまう。
 俺はミズキに急かすように声を大きくして、開店時間間近であることを知らせた。
 せっかくなので、しばらくお客さんに聞いてみることにしよう。まだまだ俺の知らない言葉と意味が、いっぱい出てきそうだ。

「姉ちゃんにとって、チームBのBって何の略だと思う?」